トリミングやお手入れの際に「ひげを切っても大丈夫なの?」「痛くない?」と不安に思う飼い主さんは多いのではないでしょうか。
「猫のひげを切ってはダメ」という話はよく聞きますが、犬のひげについてはあまり知られていないかもしれません。この記事では獣医師監修のもと、犬のひげの役割や切ってもいいケース・NGなケース、安全なカット方法までを詳しく解説します。愛犬にとって本当に必要なケアを知り、安心してお手入れを行いましょう。

この記事の監修者:松本千聖先生
岐阜大学応用生物科学部獣医学課程を卒業後、3年ほど獣医師として動物愛護団体付属動物病院やペットショップ付属動物病院にて主に一次診療業務、ペット保険会社での保険金査定業務などに従事。
現在は製薬関係の業務に携わりつつ、ペットの健康相談業務、動物関係のライティングに加えてペット用品並びに犬猫の健康記事に関する監修経験多数。なおプライベートでは個人で保護猫活動並びに保護猫達の健康管理実施中。
犬のひげの基本情報

犬のひげは「触毛」と呼ばれる特殊な毛で、ほかの被毛と比べて太く硬いのが特徴です。根本は筋肉とつながっているため、動かすこともできます。
犬のひげはカットしても痛くはありません。というのも、犬のヒゲの場合は毛の中心ではなく、根元に感覚器が存在し、血管や神経が通っているため、トリミングで毛先を揃える程度なら心配しなくても大丈夫です。
しかし、犬のひげにはいくつかの役割があり、切りすぎてしまうと普段の生活に支障が出てしまう場合があります。
犬のひげにはどんな役割があるのでしょうか。以下で詳しくみていきましょう。
物との距離を測る
犬のひげは、周囲に物があるかどうかを確認するセンサーの役割があります。ひげの根元には感覚神経が集中しており、わずかな接触や空気の流れの変化も敏感に感じ取ることができます。
犬は鼻が前に出ている犬種が多く、足元や近くの障害物が見えにくいことがあります。そのようなとき、犬はひげを使って床に障害物がないかを確認しています。周囲が暗いときや狭い場所を通るときにも、ひげのセンサーが役立っています。
平衡感覚を保つ
犬のひげは、周囲の状況を感じ取り、動きや姿勢を安定させるサポートをしています。
ひげが空気の流れや周囲との距離の変化を感じ取ることで、犬は動く方向やタイミングを判断しやすくなります。
そのため、走る・跳ぶ・急に方向を変えるといった動作の多い場面では、ひげによる感覚が行動の精度を高める助けになることも。
スピードやバランスが求められるアジリティやディスクドッグなどの競技でも、周囲の状況を把握するうえでひげが役立つ場合があります。
また、高齢になると内耳が司る平衡機能が徐々に衰えていきますが、そのようなときに、ひげによる感覚が行動時の不安を和らげる助けになることもあります。
感情を表現する
ひげの動きは、愛犬の気持ちを知るときのヒントになります。
緊張しているときはひげが前方に向くことがあり、不安なときには顔の横に沿うように動く場合があります。
リラックスしているときは、ひげが力まず自然な位置に落ち着く傾向が見られます。
犬の気持ちはしっぽの動きや目元の表情にも表れますが、ひげの動きとあわせてチェックすると、より分かりやすくなります。
犬種によるひげの違い
犬のひげの役割や使われ方には、犬種による違いも見られます。
犬のひげは犬種によって、長さや硬さに差があり、見た目や触り心地にも個体差があります。
長毛種のひげは比較的柔らかく長めであるのに対し、テリア系では硬く短めのひげが見られることが多いです。
また、素早い動作が求められるハンティング犬では、周囲の状況を感知しやすいよう、ひげが発達している傾向があります。
犬のひげは切ってもいいの?

犬のひげは、基本的に切る必要のない部位です。無理にカットすると、一時的に感覚が鈍ったり、愛犬が不安やストレスを感じたりするおそれがあります。
とはいえ犬は嗅覚が優れているため、ひげをカットしても猫のように即座に影響が出るわけではありません。美容や衛生といった目的があるときは、ワンちゃんの様子に配慮しながらひげを切り揃える場合もあります。
カットについて判断に迷ったときは、トリマーやかかりつけの獣医師に相談すると良いでしょう。
ひげを切るのはどんなとき?

犬のひげは基本的に切る必要のない部位ですが、生活環境やお手入れの目的によっては、ひげを整えた方がよい場合もあります。
見た目を整えたいときや、口周りを清潔に保ちたいときなど、ワンちゃんの様子に配慮しながらカットを検討するケースも少なくありません。
ここでは、ひげを切ることがある代表的な場面について紹介します。
見た目を整える美容目的
ひげが伸びすぎると、顔周りが重たく見えることがあるため、毛先を整えてすっきりとした印象に仕上げることがあります。
撮影の予定があるときなど、ひげを整えて愛犬をより可愛く見せたいと考える飼い主さんも多いでしょう。
また、顔周りの被毛とのバランスを整えたい場合に、ひげの長さを調整することもあります。
汚れやすい口周りを衛生的に保つ
ひげを長く伸ばしていると、食事や水を飲むときにどうしても汚れやすくなります。
フードの汚れを放置したり、口元を十分に拭けていなかったりすると、皮膚トラブルや臭いの原因になることがあり、不衛生です。
衛生を保つために、ひげの長さを整えておくケースはよくあります。
ひげが整っていると口周りのお手入れがしやすくなり、とくに食べこぼしやよだれが多いワンちゃんでは、清潔さを保つためのひとつの方法として役立つことがあります。
ひげをカットする際の注意点
若くて健康なワンちゃんの場合は、毛先を整える程度であれば、ひげを切っても大きな影響が出ないことが多いです。
ただし、急にすべてのひげを短くカットすることは推奨されません。
ワンちゃんにとって行動の妨げになったり、ストレスを感じたりする可能性があります。
最初は毛先を少し整える程度にとどめ、様子を見ながら少しずつ慣らしていくとよいでしょう。
カットする際は、根元に近い部分は避け、感覚器としての機能を残すことが大切です。
また、ひげを引き抜くことには痛みが伴うため行ってはいけません。
犬のひげを切らないほうがいい場合

犬のひげは、状況によっては切らずに残しておいた方が安心な場合もあります。
年齢や体の状態、生活環境によっては、ひげによる感覚が行動時の手助けになることがあるためです。
ここでは、ひげのカットを控えた方がよい代表的なケースについて紹介します。
成長過程の子犬(パピー)
子犬のうちは、嗅覚や視覚などの感覚機能や運動機能がまだ発達途中です。
ひげによる感覚が、周囲の状況を把握する手助けになることもあるため、成長期の子犬はできるだけひげを残しておくと安心でしょう。
遊びや運動、犬同士でコミュニケーションを取る場面などでも、ひげが役立つことがあります。
視覚や嗅覚などの機能が衰えてきたシニア犬
犬も人間と同じように、高齢になると目や鼻といった感覚機能が徐々に衰えていきます。
その結果、障害物に気づきにくくなることがありますが、ひげによる感覚が行動時の補助になる場合もあります。
小型犬は8~9歳頃、中型犬は7~8歳頃、大型犬は6~7歳頃からシニア期に入るとされているため、年齢や体調に合わせて、ひげのお手入れ方法を見直していくとよいでしょう。
外出や散歩が多い犬
屋外での散歩や運動が多い犬は、ひげによる感覚が周囲の状況を把握する助けになることがあります。
また、散歩やドッグランなどで他の犬と接する場面では、ひげを含む表情やしぐさが、相手との距離感をつかむ手がかりになることもあります。
視力が弱い、または夜間活動が多い犬
白内障や加齢などの影響で視力が弱い犬や、夜に散歩する機会が多い犬は、障害物や段差に気づきにくくなることがあります。
そのため、安全面を考慮し、ひげはできるだけカットしない方がよいでしょう。
ひげを多く使う傾向がある犬
犬種によっては、行動の特性からひげによる感覚が役立つ場面が多い場合があります。
たとえば、ダックスフンドやビーグルなどの猟犬は、地面に鼻を近づけながら行動することが多く、ひげによる感覚が周囲の状況を把握する手がかりになることがあります。
また、レトリーバーなどの大型犬や柴犬などの日本犬は、自然な被毛スタイルが好まれる傾向があり、ひげを無理にカットする必要性は低いと考えられています。
犬のひげのカット・ケア方法

犬のひげをカットする場合は、正しい方法と適切なケアを知っておくことが大切です。
やり方を誤ると、犬に不安やストレスを与えてしまう可能性があります。
ここでは、自宅でひげを整える際の基本的なカット方法や、日常的に気をつけたいケアのポイントについて解説します。
初めてのカットはプロに依頼する
犬のひげの根元は、感覚がとても敏感です。顔周りを触られることを嫌がるワンちゃんも多く、動いた拍子にハサミで傷つけてしまうおそれがあります。
また、周囲の被毛を避けながらひげだけを整えるのは、慣れていないと難しい作業です。
そのため、初めてひげをカットする場合や、ワンちゃん犬が落ち着かず動いてしまう場合は、トリミングサロンや動物病院などのプロに依頼すると安心でしょう。
自宅でカットするときの手順
自宅でひげをカットする場合は、犬専用のひげ切りハサミを使うのがオススメです。
用意できない場合は、小型で先端が丸いハサミを選びましょう。愛犬の顔を傷つけないよう、刃先の形状には十分注意してください。
ほかに、ひげを梳くためのコームや顔を拭くタオル、愛犬のお気に入りのおやつを用意しておくと作業がスムーズです。
カットは、ワンちゃんがリラックスできる静かな場所で行いましょう。
①切る前の下準備をする
小型犬は膝にのせる、大型犬はソファや座布団の上に座らせるなど、ワンちゃんが楽な姿勢を取れるようにします。
あらかじめコームでひげを梳かしておくと、左右のバランスを取りやすくなります。
②犬の顔を支える
ハサミは利き手に持ち、もう片方の手でワンちゃんの顎をやさしく支えます。
ワンちゃんの表情をよく観察し、嫌がる様子がないか注意しましょう。
③ひげをカットする
ひげの先端を少しずつカットします。
一度に整えたい長さまで切るのではなく、数回に分けてバランスを見ながら整えると失敗しにくくなります。
自宅でカットする場合は、根元に近い部分は避け、毛先を軽く整える程度にとどめておきましょう。
④タオルで顔を拭いて終了
切り終わったら、タオルでやさしく顔を拭き、切ったひげを取り除きます。
目や耳にひげが入っていないか確認し、皮膚に赤みや腫れがないかもチェックしましょう。
最後にお気に入りのおやつを使って、たっぷり褒めてあげてください。
使い終わった道具は洗浄・消毒し、次回も清潔に使えるようにしておきましょう。
ひげのトラブルを見つけたときは?

愛犬のひげが変色したり、枝毛になっていたりすると、「放っておいても大丈夫かな?」と心配になる飼い主さんも多いでしょう。
ここでは、日常のお手入れの中で気づきやすい犬のひげの変化と、基本的な対処方法について紹介します。
白いひげ
ひげの色は黒・茶色など犬によってさまざまです。パピーのうちから白いひげが混じっていることもありますが、元の毛色が抜けるように白くなるなら、老化現象である場合がほとんどでしょう。
白くなってもひげ本来の感覚機能は残っているので、無理にカットする必要はありません。また、白いひげがくるくると巻いている場合はタンパク質などの栄養不足が考えられるので、フードの栄養バランスを見直してみましょう。
ひげやけ
ひげやけとは、食べこぼしやよだれ、涙などによって、ひげが変色してしまう状態を指します。
ひげやけが気になる場合は、食事のあとに口元をやさしく拭いてあげるだけでも予防につながります。
必要に応じて、犬用の低刺激なスプレーやローションを取り入れるのもよいでしょう。
枝毛
顔まわりを強く掻いたり、こすったりすることで、ひげに枝毛ができることがあります。枝毛そのものは、過度に心配する必要はありません。
ただし、枝毛が目立つ状態が続いたり、頻繁に顔を足で掻いていたりする場合には、皮膚トラブルが隠れている可能性もあります。
気になるときは、動物病院で相談すると安心です。
ひげが抜ける
犬のひげは、新陳代謝によって自然に生え変わります。数本抜ける程度であれば、特に問題はありません。
一方で、急に大量のひげが抜けたり、抜けたあとになかなか生えそろわなかったりする場合は、皮膚の状態や体調の変化が影響していることも考えられます。
日ごろからひげの状態をチェックし、異変を感じたときは早めに対処するようにしましょう。
愛犬のひげケアで大切なこと
犬のひげは、周囲の状況を把握する手がかりとして役立つことがあります。
ひげをカットする場合は、ワンちゃんの年齢や体調、生活環境に配慮することが大切です。
自宅でのお手入れに不安があるときや判断に迷うときは、無理をせず、トリミングサロンや動物病院などのプロに相談してみましょう。
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